【知道中国 2548回】 二三・七・仲二
――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習214)
1973年12月出版の書籍で残るは『分水嶺集体戸日記選』(中共吉林琿春県委《分水嶺集体戸日記選》編集小組編 上海人民出版社)と『人民的児童』(張永枚 人民文学出版社)の2冊。
前書で吉林省琿春県に下放された青年たちが、「党と毛主席が示される深い関心と激励を口のするごとに、熱い、熱い涙が流れ落ちる。毛主席はこのように我ら青年に深い思いを寄せてくださる。我らはこのうえなく幸福だ! 我らは農村での数年来の貴重な体験に基づき、林彪反党集団に対する批判を徹底し、ヤツラを徹底して粉砕しなければならない」と、健気にも固く誓うのであった。
「上山下郷」とも表現される下放は文革期特有の運動ではなく、建国直後から農業増産のために若者を未開墾地に送り込むことを目的に続けられてきた。ただ文革期のそれは、文革初期に毛沢東思想を振り回して過激に動き回り、特に都市機能をマヒさせる危険性を孕みだした紅衛兵世代を、「農民から肉体労働が秘める崇高な精神を学べ」との美辞麗句で煽って、全国の農山村僻地に送り込んだもの。テイのいい所払いである。
しかも毛沢東思想に従うなら「自己犠牲と慈悲の心の持ち主」であるはずの農民は超保守的で、彼ら都市の若者は下放先では自分たちで掘っ立て小屋を建て宿舎にしなければならなかったほど。
下放経験者の体験談を読むと、「毛沢東に騙された」の苦渋の思いが行間から伝わっているのだが、『分水嶺集体戸日記選』に収められた日記では、当然ながら、明るく楽しく「為人民服務」に励む姿しか描かれてはいない。
残る1冊の『人民的児童』は人民解放軍兵士楊勝濤が共産党の教育によって成長し、勇敢な兵士へと生まれ変わって行く奮闘模様を謳い上げる大長編叙情詩といったところ。
激越な階級闘争と路線闘争の精神を身に体した彼は、プロレタリア階級の国際主義精神を発揮した英雄として描き出される。併せて中朝両国人民がアメリカ帝国主義との戦いの中で「鮮血をもって築き上げた戦闘的友誼」を強烈に印象づけ、「人民がいるところはどこであれ我ら戦士が服務すべき拠点であり、どこであれ戦いがあれば、そここそが我々が馳せ参ずべき戦場だ・・・」と感動的に結ばれている。
どうもこうも“予定調和的”な革命的夢物語だが、当時の青年が『人民的児童』で感動したとするなら、予想通りに単純が過ぎる。はたして、出版当局は、この程度の内容で若者を有効理に煽ることができるとでも考えていたら、やはりオカシイだろうに。
ここで各書の出版部数を示しておきたい。
『反動階級的“聖人” ――孔子』(人民出版社)=56万部
『論尊儒反法 ――儒家思想批判論文選輯』(香港三聯書店)=記載なし
『従猿到人』(人民出版社)=20万部
『封建社会』(上海人民出版社)=50万部
『従凡爾賽和約到慕尼黒協定』(人民出版社)=46万部
『主要資本主義国家経済簡史』(人民出版社)=記載なし
『分水嶺集体戸日記選』(上海人民出版社)=30万部
『人民的児子』(人民文学出版社)=記載なし
迂闊にも、これまで出版部数に注意しなかったが、改めて数字を見ると、やはり文革メディアがどこに力点を置いているかが浮かんでくる。上海人民出版社の勢いは当然だが、北京の人民出版社も積極展開をはじめたようだ。重ね重ねになるが、それにしても、なぜ、共産党政権になっても、かくも孔子=儒家思想の影響は強いのか。理解に苦しむ。《QED》