【知道中国 241回】                                      〇九・五・仲九

「愛国教育基地探訪(その3)」
                     ―やはり中国はスローガン大国だった―


 天津から唐山への高速道路の両側には緑地が整備され、その向こうの広大な畑中に土饅頭の墓が点在する。これが典型的な河北の農村とは思うが、経済発展に邁進し変身中とはいうものの、やはり中国である。至るところでスローガンや標語に出くわす。それらを拾い読みすることで《中国の今》を発見するのも、中国旅行の楽しみの1つ。

  たとえば農家の壁に大きく「予防手口足病 人人有責」。2008年に中国で大流行した手口足病だが、依然として要注意ということだろう。次に水不足。ともかくも6泊7日の車の旅で大小いくつもの橋を渡ったものの、まともに水が流れている河は遵化郊外の1本のみ。あるいは干上がり、あるいは汚水の水溜り、あるいはゴミ捨て場と化し、なかには木が植えられていた川床もあった。もはや川としては用をなさないと諦めたということか。

 そこで「全員動員 節約用水」とか「惜水 愛水 節水 従我做起(我より始めよ)」ということになるわけだが、やはり行き着く先は山や森林の管理しかない。

 緑が全く見当たらない山肌にみえる「治理土水流」は、緑を植え山肌の崩壊を防げということだろう。「珍愛森林 防火于未“燃”」は、どうやら山火事が絶えないことを語る。そこで「護林防火 有你有我(森林火災を防ぐのはみんなの責任)」。「冬春草木乾 防火要当先(先ずは防火だ)」となるわけだ。それにしても「緑色孕育生命 防火重于泰山」を目にした時は、伝統の重みを感じたもの。始皇帝が王朝の創業を天に報じたことから、彼ら民族にとって最も重要な霊山となった泰山より防火は重いものだと呼びかけるが、やはり思ったほどの効果がなさそうだ。だから「増強全民防火意識 提高全民消防素質(一人ひとりの防火意識と消防素質を高めよ)」となる。

 「酔在酒中 砕在杯中」は酔っぱらい運転、「請勿疲労駕駛」は過労運転に対する注意。高速道路では「不超載 不超速 平安幸福伴一路」を多く見かけた。過積載せずスピードを出し過ぎず平安と幸福と一緒に走ろうとでもいうのだが、酔っ払い運転、過労からくる居眠り運転、過積載、スピード違反――これまた、《中国の今》というものだ。

 昨年の湖南のように「厳禁溺棄」などといった直裁な表現はなかったが、それでも「児女皆是国宝」「婦女生態文明街」などを見ると、伝統的な男子偏重という考えは牢固として生きているようだ。それにしても農家の壁にデカデカと書かれた「厳禁溺棄」の4文字を目にした時には、さすがにマサカと呟かざるをえなかった。男子は両親の老後を支える。だが女の子はいずれ他家に嫁いでしまい家の役には立たない。そこで生まれたらすぐ処理してしまえ・・・オリンピックも万博も経済成長も共産党もなし。伝統中国は健在だった。

 ケッサクなのは北京北郊の古北口で見た「盗窃光纜 後果厳重」だろう。1.5メートル四方の琺瑯製のカンバンのど真ん中に、警官に逮捕され項垂れた犯人の絵。その下に、「光ファイバーは人の髪の毛より細いガラス繊維で作られています。内部に銅、アルミなど非鉄金属はなく、売買・回収する価値はありません。光ファイバー1本で何十万回線の電話やファックス、100チャンネル以上のテレビを送信しています。もし光ファイバーが盗まれ、あるいは破壊されたなら通信は途絶され、莫大な経済的損失を招きます。だから光ファイバーの窃盗者・破壊者は厳罰に処せられます」。ということは、今日もどこかで光ファイバーで一儲けを狙うトンマがセッセと土を掘り起こしているに違いない。(この項、続く)  《QED》