【知道中国 2540回】                      二三・六・念五

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習206)

 

 前(2539)回で見たS=Pが成り立つかどうかは別にして、『形式邏輯』は「『邏輯』という言葉の語源はギリシャ語のlogosであり、本来的には思想、思惟、理性、言語を意味する。人々は日常的に邏輯という単語を用いるが、その意味するところは多岐にわたる」とし、「あらゆる科学は凡て邏輯を用いる」とのレーニンの発言を引用して、「それゆえに邏輯を学ばねばならない」と主張する。

この辺に『形式邏輯』出版の狙いがあったようにも思えるが、そういえば文革では屁理屈が散々猛威を振るったが、あれを果たして“文革式邏輯”と言うのだろう。

 三段論法、仮定法、帰納法などについて詳しく解説されている。ここで興味深いのが解説として用意されている例文だろう。たとえば、

――三段論法では、

 ■一切の革命家は真剣に本を読み学習し、マルクス主義に精通しなければならない⇒私は革命家である⇒故に私は真剣に本を読み学習し、マルクス主義に精通しなければならない.

 ■あらゆる革命家はプロレタリア革命の精神を具有している⇒プロレタリア革命の精神を具有している凡ての革命家は腰抜けではない⇒故に凡ての腰抜けは革命家ではない.

■社会主義の所有制はなによりも優れている。それというのも、生産資料(生産に関する手段・材料・技術など)の私有制を消滅させ、根本的に搾取を除いているからだ⇒人民公社は社会主義の所有制である。それというのも、集団経済組織であり労働に応じた配分という原則を実行しているからだ⇒故に人民公社はなによりも優れている。

――仮定法では、

 ■彼が革命青年であるなら、労働者・農民と結びついた路線を必ずや歩んでいる⇒彼は革命青年ではない⇒故に彼は労働者・農民と結びついた路線を歩くことはない。

 ■現在のソ連が社会主義の国家であったなら、国内でファシズム専制政治を実行するわけがない⇒現在のソ連は国外的には拡張主義を、国内的にはファシズム専制政治を実行している⇒故に現在のソ連は断固として社会主義国家ではない。社会帝国主義である。

 ――帰納法では、

■あらゆる中国共産党員はプロレタリア階級の革命家である⇒彼は中国共産党員である⇒故に彼はプロレタリア階級の革命家である。

それにしても『形式邏輯』の出版から既に、半世紀が過ぎた。この間、中国は驚天動地などといったことばでは形容できないほどの“革命的激変”を続ける。

革命を掲げる故に党員は「真剣に本を読み学習し、マルクス主義に精通しなければならない」はずが、時にカネ儲けの道に邁進し、「プロレタリア革命の精神を具有してい」ない。ならば「腰抜け」であり、「なによりも優れている」はずの人民公社は痕跡を残さないほどに解体され歴史の彼方に消え去ってしまった。

「八○後」(80年代生まれ)や「九○後」(90年代生まれ)は」もとより、この世代よりも遙かに若い「Z世代」と形容されるで若者世代は「革命青年」ではないから「労働者・農民と結びついた路線を歩くことはない」。

なによりも現在の習近平一強政権下の中国は「国外的には拡張主義を、国内的にはファシズム専制政治を実行している」から、「断固として社会主義国家ではない」だろう。となると『形式邏輯』の邏輯に従うなら「社会帝国主義である」に違いない。

と言うことは「中華民族の偉大な復興」「中国の夢」の行き着く先は「社会帝国主義」となる。たしかに冗談も休み休みとは言うが、なんともモノ哀しい邏輯ではある。《QED》