【知道中国 2522回】                      二三・五・初三

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習188)

 

 もう少し例文を挙げておく。

■We have another year of bumper harvest, which is great victory of Chairman Mao’s revolutionary line=我われはまた新しい豊作の年を迎えたが、これは毛主席の革命路線の偉大なる勝利だ。

■We must do as Chairman Mao teaches us=我われは毛主席の教えに従ってことをなさねばならない。

■It is Chairman Mao who has brought us happiness=毛主席が我らに幸福をもたらしてくれた。

こういった英語で表現された毛主席賛歌が次から次へと頁を埋めていて、辟易とさせられるばかり。そこでトドメの例文を挙げて、文革式英語学習の幕を閉じようと思う。

■It is only because of Chairman Mao’s revolutionary line that we have our Party, our army and our socialist motherland=まさに毛主席の革命路線によってこそ、はじめて我らは我が党、我が軍隊と我らが社会主義の祖国を持つことができるのである。

――かくして当然の帰結として、The people want revolutionとならないわけがない。

73年も7月に入ると、いよいよ文革後半戦のクライマックスとも言える「批林批孔」の動きが始まる。

1日、毛沢東は王洪文と張春橋を呼び寄せ、周恩来が所管する外交部の動きを批判すると同時に、「林彪と国民党は同じ穴のムジナで、孔子を持ち上げるが法家を蔑んでいる」に言及している。

10日には毛沢東の甥っ子で文革期には瀋陽軍区を基盤にして、「東北の太上帝」と呼ばれるほどに権勢を誇っていた毛遠新が『瀋陽日報』で、「白紙答案」で一躍時の人となった張鉄生を大いに持ち上げている。

同じ10日、河南省で初級中学2年生が英語の成績が思わしくなく、かくて答案用紙の裏側に「私は中国人だ。なぜ外国語を学ぶ必要があるのか。ABCDなど学習しなくたって、革命の後継者にはなれる。革命を継承し、帝国主義・修正主義・反動を埋葬するぞ」と書いた。苦し紛れに“第2の張鉄生”を狙ったと考えるのが真相に近いようだが、学校当局に批判されたことから河に身を投げて自殺してしまった。どうやら文革と言う柳の木の下には2匹目のドジョウは住んではいなかったらしい。

19日、新華社は湖南省長沙で発掘が進む馬王堆から発掘された1100年以上昔の女性遺体の科学調査結果の一部(内臓器官が完全な形で残されている)を報じている。

――こう振り返ってみると、73年7月を境にして、文革が批林批孔を基調に周恩来批判含みに展開する方向に転じようとしていることが見えてくる。

そこで手持ちの7月出版の書籍だが、6月の『英語基礎語法新編』に関連させて、先ず『小学教師用 普通話練習手冊』(本社編 文字改革出版社)を取り上げることにする。それというのも語学教育を通じて、どのような政治教育が行われていたかを知ることができると考えるからである。

『小学教師用 普通話練習手冊』は普通話(=共通語)で全国を統一せよという毛沢東の大方針を確実に実行するため、「小学校教師が普通話を学び、普通話を使って授業を進められるよう」に編集されている。いわば全国の小学校の教室で児童を前にした教師が方言を使わずに教えるための模範会話・用例集といったところ。だが時代が時代だから、先生が教室で児童を指導する際に口にすることばは極端なほどに政治性を帯びてくる。政治は小学校の教室でも徹底され、教育は子供たちを文革の世界に舞い踊らせたのである。《QED