【知道中国 2521回】                      二三・五・初一

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習187)

 

 残るは『紅水河畔歌声揚 広西創作歌曲選』(広西人民出版社)、『怎様用標点符号』(沈?仲編写 上海人民出版社)、『英語基礎語法新編』(福建人民出版社)の3冊。

『紅水河畔歌声揚 広西創作歌曲選』は、「毛主席が切り開いた輝ける航路に沿って前進しよう」「毛主席は真冬の凍てつく河を泳ぐ」「毛主席は我々に幸福をもたらす」など、題名を聞いただけで内容が分かるような歌詞(楽譜付き)を集めた歌集である。

次の『怎様用標点符号』は、中国語の文章で使われる様々な記号(「。」「、」「,」「?」「!」「《》」「『』」「「」」「“ ”」など)の正確な使い方を詳解している。以前にも指摘しておいたが、このような文章作成上の約束事についての簡明な解説本の出版が絶えないということは、やはり文革の渦中で欠陥だらけの文章が目立ったからではなかろうか。

曹操の長子で、三国・魏の初代皇帝の文帝が説いた「文章は経国の大業にして不朽の盛事」を挙げるまでもなく、欠陥だらけの文章には「経国の大業」を望めるワケがない。文革の担い手と讃えられた「工農兵」も、やはり“文明度”は低かった。哀しいまでに。

残る1冊が『英語基礎語法新編』(福建人民出版社)である。この本からは当時の中国における英語に対する考え、英語教育の位置づけが読み取れるのではないか。

『英語基礎語法新編』はニクソン訪中から9か月ほどが過ぎた1972年11月に初版が出版されている。筆者所有は「第3次印刷」。じつは72年11月から73年6月の短期間に、前後3回で全22万部が出版されている。文革期における出版事情からして、この数は決して少なくはない。いや、むしろ多い方だろう。

当時は林彪事件が内外に明らかになり、四人組が権力を玩びはじめ、批林批孔が始まろうとしていた頃だから、英語による凄まじいばかりの毛沢東賛歌で全ページが埋め尽くされていても当然だ。だが、なぜ英語なのか。毛沢東を誉め讃えることを口実にして英語学習ブームが静かに広まりつつあった。そのキッカケがニクソン訪中だった、のでは。

なにはともあれ表紙を開いてみる。『英語基礎語法新編』と銘打っているだけあって、「語法(文法)」の枝葉の部分を切り取って、簡にして要を得た文法解説を柱に、読者に英語学習の道筋を示そうとしている。時代の趨勢、勢いである。最初から最初まで、徹頭徹尾・終始一貫して毛沢東賛歌で埋め尽くされている。

 先ず「主語+動詞+目的語」の基本文型を説明する例文だが、

 ■We loves Chairman Mao=我われは毛主席を熱烈に慕う。

 次いで「主語+動詞+目的語+目的語」の例文は、

■We wish Chairman Mao a long, long life!=毛主席の生命よ、無窮であれかし。

以下、思いつくままに例文を拾っておくことにする。

■Led by Chairman Mao and the Party, we are marching from victory to victory=毛主席と党の導きにより、我われは勝利から勝利に進む。

■Chairman Mao calls on us to write to win still greater victories=毛主席の呼び掛けに我らは団結し、さらなる勝利を勝ち取る。

■That the U.S. imperialists will be completely defeated in Vietnam is certain=アメリカ帝国主義がヴェトナムで完膚なきまでに敗北することは疑いない。

■How China has been able to achieve so much in so short a time is something unthinkable the capitalist world=中国がこのような短時日のうちにかくも偉大な成果を納めたことは、資本主義世界からいうなら想像だにできないことだ。

■The atom bomb is a paper tiger which the U.S .reactionaries use to scare people=原子爆弾は、アメリカ帝国主義が人民を脅すために使う張子の虎に過ぎない。《QED》