【知道中国 2519回】                      二三・四・念七

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習185)

 

 『海的女児 児童文学選輯』は、正体を偽って社会混乱を巻き起こそうと策動する反革命分子を、漁村の子供たちが解放軍兵士や民兵の力を借りて摘発・殲滅する物語。『向陽院的故事』は、「向陽院」と呼ばれる集落に住む子供たちが夏休みを利用して老道路工夫の指導を受け道路建設を手伝うなかで階級の敵を摘発する物語。共に子供たちに文革路線の正しさと階級闘争の観念を学ばせることを狙っている。「向陽」の2文字が中国を暗示していると思えるのだが。

 振り返ってみて、こういった物語を授けられて大人になった世代が、習近平世代の次の世代であり、北京中枢の権力構造に驚天動地の大異変でもない限り、彼らが「習近平後」の共産党政権を牽引し、中国を差配する確率は高い。北京の権力中枢の世代構成を改めてシカと確認し、いまから備えておくべきだ。もっとも習近平が“永久政権化”を目論んでいるなら、話は別だが。

 「体育運動を発展させ、人民の体質を増強させよ」との毛沢東の呼び掛けに応じ、人民の健康水準を不断に向上させることは社会主義革命と社会主義建設を促進させるうえで重要な意義を持つ」との観点から編まれたのが『怎様練習游泳』(人民体育出版社)である。

 カナヅチ状態から水に浮く、呼吸、バタ足を経て各種泳法までがイラスト入りで詳細に記されている。毛沢東思想を学べば泳げるようなるなどといった類のデタラメは記されてはいないが、ともかくも革命のための体質改善・体位向上を狙う。万事が革命のため。そんな時代だったわけだ。

 73年5月分で最後に残ったのが『新印譜 一・二・三』(上海書画出版社)である。

 篆刻は単に印鑑を彫るというのではなく、印材や字体、さらには彫る文字や章句を選ぶ。八方手を尽くしても手に入らないような奇石を求め、彫る文字や章句に相応しい字体を構想する。彫りあがった石の姿が美しく、紙の上に捺された1つ1つの文字の形、文字配列の妙、刻まれた文字全体とその文字が表す意味と印材の色艶との総合的な調和など、蘊蓄を傾けだしたら際限がない。

かくて篆刻は「我が国の悠久の歴史を持つ独特な伝統芸術」(「出版説明」)であり、古くから権力者、金持ち、文人墨客や貴人の間で伝えられてきた嗜みの1つでもあったのだが、これを文革的に表現するなら、まさに打倒すべき“封建文化の残滓”そのものとなる。

文革が始まるや、紅衛兵は毛沢東が指示した「四旧打破」のオ題目を叫んで街頭に飛び出していった。毛沢東思想にマインドコントロールされるがままに旧い思想・文化・風俗・習慣を打ち破ろうとした。封建的・ブルジョワ的と狙いを定め、レストランや商店、さらには街路標識までぶち壊し気勢を挙げたのである。

歴史の古い協和医院は反帝医院に、北京ダックの老舗で知られた全聚徳は北京?鴨店に、書画・骨董の名店である栄宝斎は人民美術出版社第2門市部に、当時は不倶戴天の敵であったソ連大使館前の揚威路は反修(修正主義)路に変わった。

旧いものは手当たり次第にぶち壊せ、である。他人の家に集団で押し寄せて床板、壁板、天井板まで引っ剥がし、書画骨董から貴金属、はてはラジオや自転車まで、封建的やらブルジョワ的な品々を気の向くままにぶち壊し、持ち去り・・・まさに強盗・略奪そのもの。だが、毛沢東から与えられた「革命無罪」の万能の“護符”がある。じつに革命とは何をしでかしても「無罪」だったわけだから、若者にとって楽しくなかったわけがない。

文革はまた京劇の革命でもあった。京劇に狙いを定めたわけは、毛沢東が「京劇は四旧そのものだ。だから旧い文化の象徴である京劇をぶち壊して新しい京劇を産み出すことができたら、四旧打破の戦いは全面展開できるし、完全勝利は約束されたようなものだ」と煽ったからである。かくて「毛主席のプロレタリア階級文藝路線の指導下、江青同志が心血を注ぐことによって育まれた革命様板戯はプロレタリア文藝革命の勝利の成果であり、プロレタリア文化大革命が生んだ新生事物である」(「出版説明」)ということになる。(QED)