【知道中国 2467回】 二二・十二・念五
――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習133)
「専」より「紅」、つまり専門知識・技術(=「専」)より毛沢東思想に基づく政治意識(=「紅」)が重視された当時の基準に照らすなら、『針刺麻酔』は上海の医学界のうちの毛沢東思想原理主義集団が執筆したに違いない。ならば医療技術専門書としては些か、いや大いにアブナイ・・・だろうに。
毛沢東の指示によって改良を加えられた中国伝統医学は、1950年代末から60年代初にかけて全国で広く行われるようになる。
すると「劉少奇の類のペテン師は毛主席のプロレタリア階級医療衛生路線に徹底して反対し、中国伝統医学を全面的に否定する民族虚無主義の立場に立った。針麻酔も例外ではなく、彼らは針麻酔を支持しないばかりか、ありとあらゆる難クセをつけて針麻酔は『科学ではない』『実用価値なし』と攻撃した」のであった。
ところが、「プロレタリア文化大革命の偉大なる勝利は、我が国社会生産の飛躍的発展を推進し、針麻酔もまた新たなる生命を獲得したのである。広範な医療関係者は〔中略〕劉少奇の反革命修正主義路線を批判し、路線闘争の覚悟を日々高め、針麻酔工作を、毛主席革命路線を断固として防衛する高いレベルにまで押し上げ、針麻酔を新しい段階にまで発展させ、新たなる実績を獲得した」と言うのだ。
かくして、「全国で行われた針麻酔手術は文革前の8年間には1万例に満たなかったものが、文革以来、すでに全国各地では40万例を超えたと報告されている」とのことだが、そこで知りたくなるのが手術を受けた40万人超の術後経過となるわけだが。
それはさておき、「針麻酔は毛主席のプロレタリア階級医療衛生路線が育まれることで新生した『新生事物』であり、毛主席の革命路線を貫徹することによってのみ針麻酔工作が発展可能となることを証明している」と結論づける。医学は政治と合体してこそ飛躍する?
かくて「マルクス・レーニン主義、毛沢東思想を真剣に学び、唯物論と弁証法を把握し、劉少奇の類のペテン師が撒き散らした唯心論と形而上学を綺麗サッパリと拭い去り、〔中略〕医学と生物学の両科学における一層の飛躍を勝ち取れ」とのラッパが鳴り響く。
ここでも考えるのだが、この勇ましい号令が発せられてから半世紀余、現在の中国医学界では「針麻酔」はどのように扱われているのか。まさか「針麻酔は毛主席のプロレタリア階級医療衛生路線が育まれることで新しく生まれた『新生事物』であり、毛主席の革命路線を貫徹することによってのみ針麻酔工作が発展可能となることを証明している」などの“ご高説”を信奉している医者はいないと思うのだが。
健康関連で『新広播体操手冊』(人民体育出版社 4月)を紹介しておくのも一興だろう。
「広播体操」とは日本で言うところのラジオ体操だが、「新」を関しているところがミソ。冒頭に置かれた解説によれば、毛沢東の「体操、球技、ジョギング、登山、水泳、太極拳や各種の体育運動は、出来るものはなんでも、大いに推奨しなければならない」との教えに基づき、場所、機材、設備などがなくても、全国各地で、誰でもマスター出来るし、広範な労働者・農民・兵士の利便を考え、政府の体育運動委員会が考案した――とこのと。
上半身の運動から始まり、腕を前後に突き出す、胸を広げる、下半身を伸ばす、体を左右に曲げる、腕を左右に振る、背筋を伸ばす、跳躍の8種類の動作を分解して示す写真に加え伴奏の楽譜まで付いている。
時間的には5分ほどで体全体を過不足なく、リズミカルに鍛える。長期間励行することで、「体質強化に一定の効果がある」とのことだが、写真をバラバラにして再構成すれば、我がNHKのラジオ体操第一と第二を合わせたように思える。まさかパクリではないと思いたいのだが・・・さて現在の中国における「新広播体操」の運命や如何に?《QED》