【知道中国 2457回】                      二二・十二・初五

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習123)

『鄭家村的孩子們』(汪運衡写、周昌米画、上海人民出版社)の主人公は、人民公社生産隊長・阿春伯の娘で紅小兵班長の小英である。紅小兵班長として生産隊の子供たちを指揮して農作業の手助けをする一方、阿春伯が不在の時は父親に代わって村人の相談に応じる。ある日、農作業が忙しく柿の収穫に手が回らないことを知った小英は、小紅兵に集合を命じセッセを柿の収穫に励んだ。

その夜は台風襲来が予想されている。稲刈りは終わったが、まだ柿の収穫は終わっていない。焦った農民は阿春伯に相談するのだが、生産隊の事務所には柿が山盛りになった籠が並んでいた。やがて生産隊の農民は、事の顛末を知ることとなる。

翌日、人民公社員大会。その場で小英は紅小兵を代表して、「皆さん、わたしたちは当然のことをしただけです。これからも私たちは毛主席のお話をしっかり聞き、一生懸命に勉強し、労働に励み、リッパな赤い革命の後継者になります」と決意を披瀝するのであった。

『拾稲穂 無産階級優秀戦士王国福同志教育児童的故事』(潘琨、尹方編絵、人民美術出版社)は、北京郊外の人民公社生産隊長で革命人民にとっての「輝ける模範」として知られる王国福が「革命の後継者」である子供たちを教育する物語である。それにしても実在の人物だとしたら、王国福――国の幸い――なんて、名前が出来すぎだろうに。

米の一粒、稲穂の1つも人民のモノと学んでいたにもかかわらず、小紅は帰宅途中で拾った稲穂を持ち帰り、自分が飼っている鶏の餌にして沢山のタマゴを産ませようとした。それを知った王国福は地主が横暴に振る舞い、一粒の米すら口に出来ないままの旧社会の悲惨さを説き聞かせた。

「いいかい、旧社会では何処に行ったって貧乏人が生きる道はなかったんだ。いまキミたちが送ることが出来ている幸福な日々は、いったい、どこから来たんだい」。すると小紅たちは一斉に「毛主席がいらっしゃって、共産党の指導があるからこそ、人民公社という幸せがあるんです!」

そこで王福国は頷きながら、「その通りだ。毛主席が貧乏人を導いて革命を成し遂げられたんだ。ワシら貧乏人を苦しみの海から救い出し、社会主義の幸福の大道に導いてくださったんだ」

小紅は自分のことしか考えなかった自分を恥じ、隠しておいた稲穂を本来の持ち主である隣の生産隊に返した。この話が近隣の生産隊に伝わるや、子供たちは毛主席を称える歌を唱いながら落ち穂拾いに励み、全身全霊を公に尽くす共産主義事業の後継者になることを固く誓うのであった。先ずはメデタシめでたし。

それにしても、である。当時、小雲、小英、小紅の活躍を読んだ(読まされた?)世代は、おそらく現在では60歳前後で孫もいるに違いない。文革、対外開放、経済成長、そして毛沢東時代に先祖返りしたような習近平の時代・・・否応なく歩んできた疾風怒濤の人生を、孫の世代にどのように語り掛けているだろうか。まさか王福国のように、恨み辛みを語ってはいないだろうとは思うが。

はたして今でも「私たちは毛主席のお話をしっかり聞き、一生懸命に勉強し、労働に励み、リッパな赤い革命の後継者になります」などと思い込んでいる人はいるのだろうか。

次に紹介するのは、小雲、小英、小紅らよりもう少し上の世代が対象の連環画『黄継光』(董辰生画、李学鰲詩、人民美術出版社)である。

「苦しみの根、苦しみの種は苦花(ばいも)を咲かせ。苦しみの苗、苦しみの蔓は苦瓜(にがうり)を結ぶ」と「苦」の文字がてんこ盛りになった書き出しが、この本の主人公である黄継光(1930~52年)が辿ることになる人生を暗示しているのであった。《QED》