【知道中国 833回】               一ニ・十一・念九

 ――国情絢爛・内情多端・・・・・抱腹絶倒・一読卒倒

 『中国国情読本 2012版』(中華人民共和国年鑑社 新華出版社 2012年) 

 政治・経済・社会・文化・科学技術・人物などに関するキーワードを配し、全358頁を使って、最新の中国事情を懇切丁寧に描き出そうとする。「これ一冊で華々しい中国の今を知ろう。各種の愛国主義知識コンテストに活学活用。公務員、大学生、大学院生が時事政治問題試験で先ず選ぶべき参考書」との宣伝文句に惹かれて買ってはみたが・・・。

 冒頭に掲げられた「政党」の項を例に引くと、先ず「中国で実行している政党制度は、中国共産党が領導する多党合作と政治協商制度である。これは西方の国家における二大政党、あるいは複数政党が競う制度とは異なり、同時にある国家で実行されている一党制とも違うものである。この制度は、中国における長期の革命、建設、改革の実践の過程で形成され発展してきたものであり、中国の国情に合致した基本的な政治制度であり、中国の特色を持つ社会主義政党制度であり、中国の社会主義民主政治を構成する重要な柱である」と記述する。なにやら回りくどい表現だが、そこにウソがあるからだ。

 確かに中国には共産党以外に「民主党派」と呼ばれる8つの政党(≒政治組織)がある。49年の建国に当たっては一定の役割を果たしたものの、50年代半ばに毛沢東が全国民を煽動して進めた反右派闘争によって完全に息の根を止められてしまい、いまや完全に有名無実の幽霊組織。にもかかわらず、「中国共産党と民主党派は長期に共存し、相互に監督し、相互に理解し、栄辱を共にし、共に力を合わせて中国の特色を持つ社会主義建設に励み、『共産党が領導し、多党派が合作し、共産党が政治を行い、多党派が参加する』基本的特徴を形成する」と、まるで民主党派が共産党と同じような立場で活動しているかの誤解を与える空々しい解説を続ける。これをインチキといわずに、何をインチキといえばいいのか。

 さらに、あろうことか「中国共産党は領導と執政の地位に処す」の項まで設定し、「中国共産党に備わる領導の地位は、長期の革命、建設、改革の実践の過程で形成され基盤が強化されてきた。これは歴史の選択であり、人民の選択である。80有余年の奮闘の歴史において、中国共産党は中国人民を領導し新民主主義革命の任務を達成し、民族独立と人民解放を実現した。人民を主体とする国家政権を樹立し、国家の統一と各民族の団結を守り維持した。社会主義制度を樹立し、中国の歴史における最も広範で最も根底的な社会的変革を実現した。中国の特色を持つ社会主義の事業を創造し、国家の富強と人民の幸福を実現するための一筋の完全無欠な道を見いだした」と、徹頭徹尾の虚言・贅言・粉飾満載。

 ここまでウソを重ねてしまえば、後は一瀉千里。何をいたって許される。全頁がウソとまではいわないが、大部分がマユツバ。なかには冗談としかいいようのない解説も。

 たとえば北京の国家信訪局での温家宝首相の言動だ。信訪局とは地方と中央とを問わず共産党政権の横暴・悪政に対する人民の訴えを受け付ける政府公認直訴処理機関であり、「中国の社会主義民主政治」の精華の一端として大いに喧伝され讃えられている。2011年1月、温首相は北京の国家信訪局に出掛け、地方からの多くの直訴者の輪の中に飛び込んで一人ひとり握手した後、「我われの政府は人民の政府であり、我われの権力は人民から付与されたものだ。我われは手にした権力をしかるべく用いて人民のための利益を図り、人民が直面する困難と問題を責任持って解決しなければならない」と熱く語っている。

 実に白々しい台詞だ。直訴者たちと握手した手で、温家宝は2200億円余相当の人民の財産をネコババした。「権力をしかるべく用いて人民のための利益を図」らずに私腹を肥やすばかり。「人民の幸福を実現するための一筋の完全無欠な道」・・・聞いて呆れます。《QED》