【知道中国 840回】                   一二・十二・三一

 ――言わせておけば、いい気になって・・・(1)

 『崛起的大国 ――中国大趨勢』(馮凱編著 中華工商聨合出版社 2011年) 

 巻頭に置かれた「前言」で、「改革開放以来、中国経済の急激な発展は世界的な関心を呼ぶ。現在の勢いが持続できたなら21世紀の中華民族の偉大な復興は夢なんぞではないが、中国という龍が天空を奔放・闊達に疾駆することは必ずしも容易いことではない。民族の偉大な復興は数多くの困難と矛盾を克服した後にこそ実現しうるものだ。新しい情況において中国の発展と安全を求めるためには、より多くの人びとが、より積極的な戦略的思考と実践を積み重ねることが必要だ」と提唱し、中国大国化への道筋を示そうとする。

 その道筋は「第一章 経済金融」からはじまり、「第二章 軍事政治」「第三章 現代法治」「第四章 科学技術」「第五章 国際外交」「第六章 文化教育」「第七章 社会福祉」「第八章 生態とエネルギー」「第九章 体育娯楽」「第十章 改革重点の総括と思考」と続き、「第十一章 未来の展望」で打ち止めとなるが、ウソ八百と詭弁、それに絵空事の連続だ。

 たとえば「第三章 現代法治」をみると、「法治は文明の発展段階における成果を体現したものであり、文明は法治実現の前提条件である。中国の法制建設は長期の弛まぬ奮闘を経ているがゆえに、中国人は自らの法治建設の成果を愈々もって大切にする。法によって国を治め、社会主義法治国家を建設することは中国人民の主張であり、理念である。この理念を実現するため、中国共産党は13億中国人民を導き史上空前の偉大な社会実践に共同で参画する。悠久の歴史と煌耀な文明をもつ中華民族は、いままさに民主と法治の大道を邁進し、人類の政治文明発展における新境地を開拓し創造すべく努力を積み重ねる」と“大見得”を切った後で、各論に移ってゆく。

①国際的な人権活動への積極参加、②食品安全関連法規の完備、③防災・減災関連法規の充実・発展、④労使協調による労働関連法規の完備、⑤穏健な家庭と和諧(和解)社会を保障する婚姻法の整備、⑥中国の法律文化と社会の実情に基づいた死刑制度の改革・整備、⑦行政サービスを円滑に進めるための費用徴収制度の完備、⑧法体系全体における整合性の構築、⑨「国家、社会、人民による全方位からの支持」を背景とした徹底した麻薬禁止活動の推進、⑩「貧富の格差を平準化する重要な手段」である徴税における不公平感の是正と税法体系の公正化の整備と徹底、⑪歴史的伝統遺産と民間芸術保護のための法体系の整備、⑫個人情報保護関連法規に関する初歩的検討、⑬司法の公正と政治的中立――

 以上が「中華民族の偉大な復興」の証としての大国化のための法治面からの「より積極的な戦略的思考」ということになるわけだ。確かにどの項目もソレらしいが、ソレらしいからこそウソ臭く、であればこそ騙されてはいけない・・・眉にツバです。

 たとえば①を主張するが、個人の自由と民主を柱とする人権を西欧型であり過去の国際的な人権組織の活動を歪めてきたと全否定したうえで、「人民の利益こそが国家の利益であり、人民の苦しみこそが政府の苦しみである」ことを体現する中国政府が掲げる人権こそが真の人権であり、この考えを持って世界の人権組織の根本改変を目指そうとする。つまり①の真意は国際的人権組織の中国化ということに他ならない。⑬では「中国の執政党自身の素質は不断の高まりをみせ、司法はいよいよ中立化しつつある」との強弁するが、執政党=共産党による強固な人治体制下で「司法はいよいよ中立化しつつある」とは笑止千万。

 「文明は法治実現の前提条件」というが、ならば法治の実現していない中国に文明はないようだ。どうやら文明のない「中華民族の偉大な復興」はムリということですね。《QED》