【知道中国 844回】 一三・一・初五
――果たして「『国籍』は意味を持たない」のか
昨年大晦日の「産経新聞」と書いて、次をどう綴ろうか迷った。「産経新聞」ともあろうものが、「産経新聞」だからこそ、「産経新聞」ですら、いや「産経新聞」なんて・・・。
異議を差し挟みたいのは同紙1面左上に置かれた「人物観望楼」なるコラムである。筆者は「MITシニアフェロー 岡本行夫」で、論題は「先を見通す気迫が必要」。
「昨年の大晦日の本欄に、世界中で民主主義や経済発展や安全保障の道しるべが失われていると記した。今年の大みそかも、状況は同じだ。依然として、世界は行きつ戻りつだ」と説き起こした岡本は、世界中の「道しるべが失われている」情況を略述した後、「八方塞がりの日本だったが、新政権が誕生し、経済に明るさが出てきた。しかし自民党が正しいわけでもない。日本の後退は、財政悪化にしても、ODAや防衛費の削減にしても、すべて自民党がはじめたことである」と自民党を“叱責”する。
確かに「自民党が正しいわけでも」ないことは判りきったこと。だが「日本の後退は」、果たして「すべて自民党がはじめたこと」だろうか。どうやら岡本は、ひたすら「日本の後退」を“念じ続け”、日本を貶めるべく専心したとしか思えない鳩山・菅・野田による3年余の民主党政権を不問にし、その“罪業”に敢えて目を瞑れとでもいいたいようだ。
まあ、この程度なら、岡本のノー天気なゴ高説と許せないわけでもない。だが次に読み進んでブッ魂消た。岡本というゴ仁は、真顔で、こんなことを信じているのだろうか。
「私がいるマサチューセッツ工科大学(MIT)は、今年、世界の大学ランキング第1位になった。ここでは『国籍』は意味を持たない。MITの学生の半分は外国人。世界中の人材が個人として集まる。多様な教育や文化や価値観や思考の相克の中から知恵と競争力が出てくることが常識となった。/世界が向かう方向は明らかだ。人口が幾何級数的に増加し、資源が稀少化し、情報量が大爆発してビッグデータ処理が必要となり、中国、ブラジル、トルコ、南ア、インドネシア、アフリカなどの成長が続く」と記した後、岡本は「この時代に何より重要なのは、先を見通そうとする気迫だ。安倍政権にそれができるか。まずは期待して新年を迎えよう」と結んでいる。
――自らが「シニアフェロー」として関係している「世界の大学ランキング第1位」の「MITの学生の半分は外国人」で、「世界中の人材が個人として集ま」っている。「そこでは『国籍』は意味を持たない」だけでなく、「多様な教育や文化や価値観や思考の相克の中から知恵と競争力が出てくることが常識」であり、かくして育った人材こそが難問山積の新しい世界の舵取り役を果たすことになる――
どうやらこういいたいようい思えるが、やはり「『国籍』は意味を持たない」のは「ここ」、つまりMITの内部だけだろう。「多様な教育や文化や価値観や思考の相克の中から知恵と競争力が出てくることが常識となった」と宣うが、そうして生まれた「知恵と競争力」は「個人として集まった」「世界中の人材」を経て、彼らが拠って立つ「国籍」、つまり国家に還元されるはずだ。こう考えると、昨年末のノーベル賞受賞式典に臨んだ山中博士の姿が鮮やかに思い出される。彼の胸に燦然と耀いていたのは文化勲章ではなかったか。
「先を見通す気迫が最重要」とゴ高説を垂れるなら、現に外交政策の最前線に立っていた当時、岡本は「先を見通す気迫」をもっと発揮すべきではなかったか。まあ孫崎某にも通じることだが、我が外務省はヘンテコリンな無国籍主義者を擁していたものだ。《QED》