【知道中国 850回】 一三・一・仲七
――――事実は小説より奇なり・・・「偉大な中華民族」の現実(3)
『中国当代社会階層分析』(楊継縄 江西高校出版社 2011年)
文革開始2年前の1964年に共産党に入党した著者は、共産党の情報工作機関でもある新華社で35年の長きに亘って記者生活を送り、中国新聞学院で教授を務め、84年には中国初の全国優秀新聞工作者に選ばれている。これまで記した調査報告のなかには、毛沢東、周恩来、鄧小平などの承認を得て、中共中央、中央弁公室、さらには国務院の公文書として全国要路に配布されたことも少なくないとか。ということは超一流の共産党御用達記者、いや情報工作員ということになるらしい。
「社会の和諧(調和)における最も大切なカギは、社会の各階層の間が和諧しているか否かにある」(「前言」)という視点から、現在の中国社会にみられる各階層の実態を分析し、その問題点を指摘する。
著者は財産、権力、社会的名望の有無による階層の違いを歴史的に振り返りながら現状を概説した後、現在の中国に見られる階層を①最大の階層(農民)、②都市と農村を流動する階層(農民工)、③改革の痛みに直撃された階層(労働者)、④歴史の彼方から蘇った階層(私企業家)、⑤最も憂い憤る階層(知識人)、⑦最も批判・罵倒される階層(官吏)、⑦歴史の不幸を再現するに階層(外資勤務者。著者は「新しい買弁」と規定する)、⑧社会の有害階層(黒社会)――と大きく分類し、統計数字など“根拠”を示しながら詳細に分析し、「現在の中国は多様な階層によって総合的に構成されている」と結論づける。
労働者・農民・兵士によるかつての“超単純な中国社会”は、30数年の改革・開放の過程で跡形もなく消え去ってしまったらしい。毛沢東時代を知るだけに、寂しい限りだ。
著者は「市場経済という条件下で公平な交易と公平な競争を制度的に確立することこそが社会の公正を実現する条件」と説き、①市場参入機会の平等、②土地、資金、技術、経営権、株式上場資格などの社会資源獲得のための機会の平等、③公平な税制、④公平な法律環境――が確保されてこそ、「民間活力が積極的に生かされ、執政集団は主体的に改革を進め、両者が互いに刺激し合いプラスに連動することが、新たな段階の改革への推進モデルとなるべきだ」と強く提言する。とはいうものの現実は・・・トホホそのもの。
2011年春、第11回全国人民代表大会の記者会見でのことだ。「執政集団」の代表的存在になるだろう温家宝首相は、「公平正義は社会主義の本質的特長であり、同時に社会安定の礎でもある。我われは分配の公平を期すことに止まらず、収入の格差拡大現象を徐々に減少させ、教育や医療などの資源分配の不公平を解決し、人民に改革開放の成果を享受させたい。こういったことを進めることで、経済体制の改革と政治体制の改革を推進すべきだ」と説教を垂れた、いや“大見得”を切って見せた、というべきか。
それから1年半ほどが過ぎた12年秋、『ニューヨーク・タムス』は温首相一族が邦貨で数千億円規模の不正蓄財をしているとスっパ抜く。
「社会主義の本質的特長であり、同時に社会安定の礎でもある」「公平正義」を公言するゴ当人がアッケラカンと「公平正義」を破っているわけだから、盗人猛々しいにも程がある。悪い冗談としかいいようはない。やはり貪官汚吏の伝統は拡大再生産されるばかり。
「執政集団が主体的に改革を進め」るって・・・ふ~ん、できるものならやってみろ。《QED》